さて問題です。次の火縄銃や現在の鉄砲隊に関する質問に○か×で答えてください。
【1】火縄銃は雨が降ると全く撃てない ( )
【2】火縄銃は下に向けて撃てない ( )
【3】火縄銃は複数の火薬を使う ( )
【4】火縄は藁(わら)の縄で作られている ( )
【5】耳栓の予備を常に持っている ( )
【6】火縄銃は古いものだからできるだけ分解しない ( )
【7】西尾藩鉄砲衆は毎月激しい発砲訓練を人がいない山の中で行っている ( )
【8】西尾藩鉄砲衆は弟子と師匠は同じ背旗を付ける伝統がある ( )
【9】鉄砲隊は常に警察庁の登録証を携帯していないといけない ( )
回答と解説の前に、私が所属する愛知県古銃研究会や西尾藩鉄砲衆を紹介します。
私は平成23年(2011)に愛知県古銃研究会に入会し、西尾藩鉄砲衆に所属しています。愛知県古銃研究会は火縄銃の研究や古式火縄銃演武の継承を行っています。
まず、なぜ鉄砲隊に入隊したかという理由は、城や戦国時代は火縄銃と非常にゆかりが深いからです。歴史を語る時も、城の構造を考える時も、合戦の流れを追う時も火縄銃というのは多く関わってくるものなので、火縄銃についてもっと知りたいという願望から、愛知県古銃研究会に入会しました。
そして西尾藩鉄砲衆は、加藤征夫先生が組頭を務める隊で、愛知県古銃研究会に所属しています。
鉄砲隊にはいろんな取り決めがありますが、そのうちのひとつに【甲冑と火縄銃は個人所有のもの】という決まりがあります。これは甲冑も火縄銃も自分で管理して責任を持つという事です。特に火縄銃は整備や保管を含めて自己責任で管理しなければならないという自覚を培うための取り決めでもあります。
しかしこの個人所有というのが経済的にハードルを上げるのも確かです。入手できれば管理費はそんなにかからないものの、入手するまでが大変です。
また火縄銃は世に出ているものが全て古式火縄銃演武に使えるものではありません。よくネットオークションや骨董展でピカピカの火縄銃を見かけたりしますが、中には整備不良のために火を付けることができないものもあり、古式火縄銃演武には使用できないものも多くあります。
ではどういった火縄銃なら実際に演武に使うことができるのか?これは外観の見た目で判断することはできず、必ず分解して判断する必要があります。
もちろんこれには火縄銃の構造に関する知識が必要なので、ここで簡単には説明できませんが、【火縄銃なら何でも火薬を入れて撃てるわけではない】という事を覚えておいてください。
そして古式火縄銃演武は愛知県をはじめ、近県の歴史祭りやイベントで披露しています。演武は実弾は使用せず空砲ですが、本物の火薬と本物の火縄銃を使用します。
また基本的に主催者から出陣依頼が無いと演武はできませんが、誠に有難いことに毎年依頼を頂いている祭りも多くあります。近年ほぼ毎年出陣依頼がある歴史祭りやイベントは次の通りです。
【春】宗春おもちまつり(名古屋城)
【春】岡崎家康行列(岡崎市)
【春】光秀祭り(恵那市明智町)
【夏】設楽原決戦場祭り(新城市)
【秋】安祥文化のさとまつり(安城市)
【秋】岐阜信長まつり(岐阜市)
【秋】清洲城信長まつり(清須市)
【秋】太田宿中山道まつり(美濃加茂市)
【秋】国宝松本城「古式砲術演武」(長野県松本市)
【秋】にしお産業物産フェア(西尾市)
【秋】サムライ・ニンジャフェスティバル(大高緑地)
この他にも行列のみのイベントや火縄銃の供養祭もあります。時期的に春と秋が多いのですが、同じ日にバッティングすると、皆で分散して出陣する決まりになっているので、自分が出陣したい祭りに必ず出ることができるという訳ではありません。
また祭りやイベントにより、火縄銃演武の時間帯が違ったり、発砲数、演武方式、演武以外の行列参加など御役目も変わるので、祭りごとの対応ができないといけません。
もしこれらの歴史祭り、イベントに鉄砲隊が出陣していた場合、もしかするとその中に私もいるかもしれないので、是非、探してみてください。
では問題の正解と解説を行います。あなたは何問正解したのでしょうか?
【1】火縄銃は雨が降ると全く撃てない ( × )
歴史ドラマや映画では、火縄銃は雨が降ると撃てない様に描かれていますが、答えから言うと火縄と火皿が濡れていなければ撃てます。逆に言うと火縄もしくは火皿が濡れると撃てなくなります。
これは現在の古式火縄銃演武で非常に切実な問題があるんです。それは火薬。火薬は警察の指導のもと、申請した火薬をその日、その場所、その時間に消費しなければならないという決まりがあります。
つまり多少の雨では火縄銃演武を行うのです。隊員は火縄と火皿を濡らさない様に細心の注意をしているのです。例えば火縄に蝋(ロウ)を塗って水を弾く様にするとか、火皿を演武ギリギリまでビニールで保護するなどの工夫をしています。
まあ、これも限界がありまして、雨の度合いによっては火縄も火皿も濡れてしまい演武ができなくなることもあります。その場合は陸上自衛隊に依頼して火薬を処分してもらいます。
【2】火縄銃は下に向けて撃てない ( × )
火縄銃を下に向けて撃つと、火薬も玉も下に落ちてしまうと思いがちですが、槊杖(さくじょう:カルカ)で突き固めることにより下に向けて撃つことができます。
城の天守に『石落とし』という遺構があることを御存知だと思いますが、そもそも『石落とし』は火縄銃や矢で敵を撃つ穴でもあり、石を落とすためだけのものではありません。もちろん敵が迫って来れば、刀や槍、なんでも落としたでしょうが。
また古式火縄銃演武では、『狭間撃ち』という、下に向けて放つ砲術もあります。
【3】火縄銃は複数の火薬を使う ( ○ )
火縄銃には2種類の火薬を使います。まずは銃口から入れる本火薬。そして火皿に入れる着火薬(口薬:こうやく)です。
なぜかというと、本火薬は威力はあるのですが火が付きにくい。口火薬は火が付きやすいのですが威力は弱いという特性があります。これを利用し、火皿に火が付きやすい口火薬を入れます。そして銃の内部の穴で繋がっている本火薬に火を送ります。こうすることによって玉が外に飛び出す訳です。
【4】火縄は藁(わら)の縄で作られている ( × )
火縄の材料はいくつかあります。もちろん藁もありますが、その他には竹の皮、木綿などです。現代では木綿の火縄を使います。
【5】耳栓の予備を常に持っている ( × )
火縄銃演武では基本的に耳栓を使いません。なぜかというと、指揮官の号令が聞こえないからです。でも?火縄銃演武をご覧になられた方は分かると思いますが、火縄銃を放つと轟音が辺りに響き渡りますよね。耳の鼓膜(こまく)が破れるのではないかと思いがちですが、実は火縄銃の音は筒先から外に向けて放たれているので、撃つ人は全くやかましくないのです。なので、耳栓はしていません。
【6】火縄銃は古いものだからできるだけ分解しない ( × )
実は火縄銃演武後、火縄銃は分解して沸騰したお湯で洗浄します。なぜかというと、火縄銃で使う黒色火薬の中に硫黄が含まれており、硫黄は鉄の腐食を進めるからです。黒色火薬は木炭、硫黄、硝石(しょうせき)からできており、演武で黒色火薬を使うと銃口の中に硫黄も付着し、そのまま放置すると鉄の腐食を進め事故に繋がる恐れがあるのです。
数年前、とある火縄銃を使ったイベントで、火縄銃が暴発後に折れるという事故がありましたが、これは銃の内部腐食が原因のひとつではと指摘されています。ちなみに洗浄でお湯を使うのは、蒸発するので筒の中に水分が残りにくいから。また乾いた後は椿油を塗ることにより防錆効果が出ます。(椿油は揮発性があり残りにくい)。この作業を毎回、演武後に行います。毎回です。
【7】西尾藩鉄砲衆は毎月激しい発砲訓練を人がいない山の中で行っている ( × )
これも意外に思われるかもしれませんが、火薬を使うのは基本的に歴史祭りやイベントの本番のみです。毎年3月に火薬を使った練習会を年に1回行うのですが、それ以外の個人練習では火薬は使用しません。なぜかというと、火薬が手に入らないからです。
火薬は警察への申請により入手できるものであり、練習での発砲も警察の許可が必要になります。この理由により簡単に毎月、火薬を使った練習ができるのではないのです。
では普段はどんな練習をしているのかというと、ひたすら所作(しょさ)を練習します。『玉込め』の指揮官の号令から『放て』まで、ひたすら火薬なしで動作のみを理屈で考えるのではなく、体が覚えるまで練習します。そして本番で火薬を使った演武を披露できるのです。
【8】西尾藩鉄砲衆は弟子と師匠は同じ背旗を付ける伝統がある ( × )
この背旗に関する考え方は、各鉄砲隊で異なるのですが、私が所属する西尾藩鉄砲隊では出題と逆の考え方で、『決して他人と同じ背旗を使ってはいけない』という決まりがあります。西尾藩鉄砲衆は各個人バラバラの背旗を使います。
その理由は演武の時、個人を確実に識別する必要があるからです。演武を指揮する指揮官は通常、皆の動作が見える場所にいます。そこで普段と様子がおかしい隊員や動作が遅れている者を旗で識別することが必要だからです。
これにより場合によっては指揮を遅めにしたり、個人に対して演武を停止させる指示を行います。ハッキリいって、甲冑を着ると、皆同じ顔や姿に見えるので、あえて個性的な背旗で個人を識別したほうが分かりやすいのです。
【9】鉄砲隊は常に警察庁の登録証を携帯していないといけない ( × )
火縄銃の登録証は常に携帯しています。しかしそれは警察庁ではなく、火縄銃の登録先の教育委員会の登録許可証です。なぜかというと、私達が使用している火縄銃は文化財として登録されているものを使用しているからです。しかし火縄銃を持ち歩き演武を行うことは銃刀法を遵守しなければいけません。これは皆が守っている事です。
【まとめ】
今回は戦国好きや城に興味がある人でも、あまり知られていない火縄銃や現代の鉄砲隊について書いてみました。
私も火縄銃を撃つ前と撃つようになった後では、火縄銃の特性について、テレビドラマや映画とは違う事がたくさんあることに気が付き、ここに歴史と現実のギャップや面白さなどがあるのだなという事を痛感しています。
火縄銃を撃つようになって分かったことは、今回紹介した事よりも、もっとたくさんあります。例えば一分間に一人で何発撃てるのか?または実弾だと、殺傷範囲はどのくらいの距離なのか?など、もっとたくさん書きたいことはありますが。それはまた次の機会でお伝えすることができればと思います。
最後に今回、火縄銃の特性と鉄砲隊の話をいろいろとお伝えしましたが、次にあなたが歴史祭りやイベントでどこかの鉄砲隊の火縄銃演武を見る時、今回私がお伝えしたことを参考に見てみてください。今回の話は、私が所属する愛知県古銃研究会や西尾藩鉄砲衆の話が中心になっていますが、今までとは違った火縄銃演武の見方ができると思います。
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[…] 【 補 足 の補足】 下記の写真は、サイト「ゼロからはじめる愛知の城跡と御朱印、戦国史跡巡り講座」様からの引用で、火縄銃を下に向けて撃つ演武の姿勢だそうです。 […]