平成31年(2019)年3月に行われた、大高城兵糧入れのイベントに甲冑で参加しました!これはNPO法人・桶狭間古戦場保存会の企画で行われたイベントで、かつて松平元康(徳川家康)が桶狭間合戦で大高城に兵糧を入れた街道・大高道を歩くというもの。
今年は大高道の途中からのスタートでしたが、あいにくの雨でした。
さて、史実では、松平元康は馬に兵糧袋を括り付けて、織田勢に包囲されていた大高城に兵糧を入れたということで、今回も馬が登場(サラブレッドですが)。そんな中、たまたま馬主さんとお話する機会があったので、馬に関する素朴な疑問を聞いてみたところ、意外な答えが返ってきました!
まずこの馬主さんは、大学教授でもないし、歴史本を書いている方でもない。時代考証をしているワケでもありません。では何かというと、もう二十数年、毎日馬の世話から調教、そして馬のイベント出演をサポートしてきたという、それこそ馬と共に生きている方です。
馬に蹴られたこともあるし、噛みつかれたこともある。でも馬と共に歩んでこられた方です。馬主ですもの。その馬主さんに馬の質問をしてみたので、Q&A形式で返ってきた答えをあなたとシェアしたいと思います。
Q 馬は大きな音で混乱する?
A それは最初だけ。
天正三年(1575)年、織田・徳川連合軍と武田軍が戦った長篠・設楽原合戦で、武田騎馬隊は無かったという説が有力になっています。なぜ武田軍に騎馬隊は無かったのか?それはいくつか説があるのですが、どこかの大学教授だか歴史家だか忘れましたが、以前、こんな事を言ってました。
【馬は臆病な生き物。火縄銃の音で大混乱して、パニックになり使い物にならなかった】
馬主さんに聞いてみたところ、これはNO!なぜかというと、馬は確かに大きな音に敏感ですが、それは最初だけ。馬も学習能力は高く、大きな音がしても、それが自分に直接害が無い事が分かると、大きな音が鳴り続けても平気でいることができるそうです。
現に今回のイベントでは、馬の後ろに太鼓隊がいて、イベント中、太鼓を叩きまくっていまいました。最初こそ馬はソワソワしていましたが、行軍中は後ろでどれだけ太鼓の音が大きかろうが、非常におとなしく冷静に歩いていたのです。だから馬は大きな音に反応するのは最初だけ。それ以後は学習して結構平気で過ごせる動物です。
Q 馬は夜走ることができない
A できます。問題は人間にアリ
何かの小説で馬は夜には走ることができないというのを読んだことがあります。なぜかというと、馬は人間より視力が低く、視野が狭いから。馬主さんに聞いてみたところ、それはNO!
まず馬は夜でも走ることができますが、それにまたがる人間の視力のほうが弱いので、周囲が見渡せないとの事。また馬の視野は180度以上あり、人間よりのはるかに広いそうです。
なぜかというと、耳の後ろ側で旗がはためくと、敏感に察知して驚くそうです。(すぐになれるそうですが)。人間の視野はそんなに広くないですね。どうでしょう?90度くらいでしょうか?
Q 戦国の馬の寿命は10代、今は…
これは逆説的に書きます。現代の馬の寿命は約30代くらい。なぜかというと、餌や薬も非常にクオリティが高く、予防接種も当たり前に打ち、また馬の治療技術もたくさんあるからです。
でも逆に言えば、戦国時代はそんなもの無かった。これは推測ですが、戦国時代の馬の寿命は10代くらいではないかという事です。そう考えてみると、寿命は倍に伸びたという事ですね。
Q 騎馬部隊を簡単に不能にする方法とは
あなたはいくさの子という漫画を御存知ですか?北斗の拳を書いた原哲夫氏が、織田信長を主人公に書いた漫画です。
その11巻に次の様なシーンがあります。
桶狭間合戦の前、鳴海城主・山口友教が織田信長に背き、今川に付いたので、信長は山口氏を攻めることになりました。山口軍は屈強の雄(オス)馬を揃えて騎馬部隊を編成。そこで信長は雌(メス)馬を集め、山口軍に向けて走らせたところ、山口軍の雄馬は雌馬に反応し追いかけ、山口軍は騎馬部隊が崩壊し、そこを信長が攻め勝利しました。
これは信長公記にはないフィクションですが、馬主さんにこの戦法は実際に有効なのか?と聞いたところ…
『非常に理に叶っている戦法』だとか。(笑)
発情した雄(オス)馬は、鉄の棒で殴りつけても言う事を聞かないという言葉がありますが、その通りらしく、これは野生の本能で仕方がないのだとか。だから馬主的には、騎馬部隊が攻めてきたら、まずは馬の性別を調べ、それが雄(オス)馬の場合、それに向けて雌(メス)の馬を放てば、雄(オス)馬は人間を背中に乗せている事すら忘れて、メスを追いかけるのだとか。
そうなれば戦どころではないですね…
この本能があるゆえに、現代の雄(オス)馬は、かなりの高評価を残した馬以外には、去勢されるそうです。馬の世界って、人間よりもキビシイですね…
私の感想
私の感想ですが、今回は非常に説得力のある馬の話を聞くことができたと思います。なぜかという理由ですが、馬の世話をしたこともない、どこかの大学の教授が、長篠合戦における騎馬部隊の話をするより、毎日馬の世話をしている馬主さんの話の方が説得力があると感じたからです。これは火縄銃も同じです。
火縄銃を打った事もない、もしくは何回かだけ打った経験がある歴史家が、火縄銃について語るより、毎年、何十回も地元警察のアツい視線を浴びながら、火縄銃演武をしている鉄砲隊の話が説得力があるのと同じです。今回はイベント中の話だったので、これ以上は時間的に聞くことができませんでしたが、非常に有意義な時間でした。
このような方の意見が、時代考証の場に反映されるなら、今後の歴史認識も変わってくるのでしょうね。