かつての三河国である愛知県豊川市伊奈町の伊奈城跡は本多氏の居城で、徳川氏の家紋である三つ葉葵紋発祥の地という説がある城です。西三河から国道23号線を通って豊橋市に向かう途中にある伊奈城址は、私的についつい立ち寄ってしまうマニアックな城です。歴史的にも遺構的にもちょっとしたポイントがある城なので、見どころをまとめてチェックしてみましょう。
葵紋が生まれたエピソード
なぜ伊奈城に葵紋発祥の逸話があるのかというと、話は徳川家康の祖父・松平清康の時代にさかのぼります。松平清康が岡崎城主だった享禄二年(1529)、三河国統一を目指す清康は、戸田氏の吉田城(豊橋市)を攻めました。この時、当時の伊奈城主だった本多正忠は、松平軍に加わり、先鋒として吉田城の東門を破り、城を攻め落とします。
その後、松平・本多連合軍は更に田原城も攻めようとしましたが、戸田氏が降伏したので、これにより清康は東三河南部を平定することに成功します。そして岡崎城へ凱旋途中、正忠は清康を伊奈城に招いて凱旋の祝宴を開きました。
その時、正忠は城内の花ヶ池にあった水葵の葉を敷いて酒肴を出しました。すると清康はとても喜んで、正忠の家の立ち葵紋を松平家の家紋としました。それが家康の代になり【三つ葉葵の紋】となったといわれています。
この話は新井白石がまとめた藩翰譜(はんかんふ)にあるオハナシで、葵紋発祥の説は他にもいくつかあり、現在でもいろんな議論があります。でもそのうちのひとつの説が本多正忠ゆかりの愛知県豊川市にある事は、非常に興味深いですね。
ちなみに現在は豊川市ですが、この地は平成22年(2010)まで宝飯郡小坂井町(ほいぐん こざかいちょう)といい、かつては葵の御紋発祥の町としてPRしていました。秋に行われていた、こざかい葵まつりでは武者行列もあり、吉田城の城門破りの再現や葵紋が誕生した逸話の寸劇も行われていたのです。(ちなみに私も2回参加したことがありますw)
伊奈城址のアクセス
伊奈城跡には車でのアクセスが便利です。専用の駐車場もあります。
●伊奈城跡の住所●
豊川市伊奈町深田18
それでは城内!
では伊奈城の遺構をチェックしてみましょう!まずは外観から。伊奈城址は平城現在は公園になっています。周辺は田んぼ。かつては湿地帯に囲まれていた城なのでしょうか。
公園内に建つ櫓。平城なので周辺を見渡すことができる櫓みたいなものはあったと思います。中に入る事ができないのは残念。
櫓の側には豊川市教育委員会と伊奈史跡保存会の葵の紋発祥ゆかりの地の看板があります。
公園内で栽培されている二葉葵(ふたばあおい)。家紋の元になった植物です。
本丸の土塁跡。伊奈城は石垣の城ではなく土の城で、かつては本丸周辺を土塁が取り巻いていました。それが現在でも残っています。高さは3mくらいです。
発掘調査で出てきた建物の礎石を復元した遺構。これにより、伊奈城に建造物があった事が分かっています。ここにあったのは、城主の館なのか?それとも物見櫓みたいなものでしょうか?残念ながらどんな建物があったのかまでは分かっていません。
生念台という火葬場
発掘調査では、もうひとつ興味深いものが出てきました。それが生念台(しょうねんだい)跡。生念台とは、この地に葬られた人を弔い拝礼する場所です。発掘調査により、この場所の約70cm地下から、伊奈城初期の頃のものと思われる十五世紀中ごろの複数の火葬趾や火葬人骨、また六文銭が見つかっています。城内でも特別な場所だったのでしょう。現地の説明板は以下のとおりです。
伊奈城古図(膳所・緑心寺蔵)によると、この付近に生念台が建てられていた。今回の調査により。此処の地下約0.7メートルに伊奈城初期(十五世紀中頃)の頃の複数の火葬跡や火葬人骨と共に束ねられた六文銭が発掘された。この発掘により生念台は正念台であり正念とは一心に念仏することで、此処に葬られた武者を弔い礼拝する所であったと思われる。
堀には逆茂木があった!
発掘調査の結果、堀跡からは逆茂木(さかもぎ)の遺構が確認されています。逆茂木とは、敵の侵入を防ぐ防御柵(バリケード)です。徒歩で攻めてくる敵を防ぐ事もできましたし、大きな水堀では船による侵入にも効果を発揮しました。(ちなみに逆茂木は日本城郭検定にも出てきます)伊奈城の逆茂木は、本丸東入口の両側の堀に等間隔で設置されていた事が分かっており、それを再現しています。
私の感想と所要時間
私の伊奈城の感想ですが、現状は本丸の単曲輪のみの遺構ですが、見る場所はいくつかあると思いました。その中でも大土塁は数百年経った今でも約3mくらいの高さがあるので、よく残っているな~と思いました。
また櫓に入る事ができ、周辺を見渡すことができるともっと楽しめると思うのですが(笑)さて、そんな伊奈城址の所要時間ですが、私が数回巡った経験では約30分もあれば一通り見る事ができると思います。場所的に豊川稲荷や豊川市の城址、そして蒲郡市の城址などとセットにすると良いでしょう。